東京地方裁判所 昭和50年(ワ)2757号 判決 1976年5月28日
原告 小池義夫
被告 市川モト子
右訴訟代理人弁護士 石田寅雄
同 藤井誠一
主文
被告は、原告に対し、別紙目録記載の建物を明渡せ。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は仮に執行することができる。
但し被告が金一、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
(原告)
主文第一、二項同旨の判決および仮執行の宣言。
(被告)
一 本件訴を却下する。
本件訴が適法とされる場合
二 原告の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
第二請求の原因
一 原告は、弁護士であり、亡市川虎之助の遺言執行者である。
二 虎之助は、昭和四九年九月六日、東京都西多摩郡瑞穂町二本木七六一番地所在仁友病院において、東京法務局所属公証人子原一夫に対し、遺言を口授し、同公証人は、右遺言の公正証書を作成した(以下本件遺言という)。
三 虎之助は、昭和四九年一〇月三一日、死亡し、その相続人は、長女の市川まき、次女の市川信子、三女の被告、四女の梶原秀子の四名である。
四 本件遺言により、別紙目録記載の建物(以下本件建物という)は長女市川まき、次女市川信子が持分各二分の一の遺贈を受け、その所有権を取得し、右遺言では遺言執行者を原告と指定している。
五 被告は、本件建物を占有している。
六 よって原告は、本件遺言の執行として本件建物を市川まき、市川信子に引渡すため、民法一〇一二条にもとづき被告に対し、本件建物の明渡を求める。
第三被告の答弁および主張
一 原告は、遺言執行者であるとしても、遺言により遺贈にもとづく各所有権取得者に対する所有権移転登記手続等の権限を有するのみで、本件建物明渡のような相続による分割移転登記完了後の所有権行使は遺言執行者の権限に属しないから、本件訴は不適法である。
二 仮に右主張が認められないとすれば、次のとおり答弁する。
請求原因第二、一、二の事実は不知。第二、三の事実は認める。第二、四の事実は不知。第二、五の事実は否認する。
三 被告は、虎之助の昭和三八年二月一一日の遺言書により、本件建物の遺贈を受け、これを所有している。
四 仮に右遺言が公正証書による遺言によって取消されたものとしても、虎之助は、昭和三八年二月一一日、被告との間で、被告に本件建物を生涯使用させる旨の合意をなし、以後被告は、結婚もせず、虎之助の身の廻り、家事、地代取立等一切の世話をしてきたものであるから、死因贈与契約が締結されたものであり、虎之助の死亡によって本件建物の所有権を取得した。市川まき、市川信子は、所有権を取得したとしてもその登記がないから被告に対抗しえない。
五 仮に右主張が認められないとしても、被告は前記四の契約により本件建物について使用権を有するものである。
第四被告の主張に対する原告の認否
一 被告の第三、一の主張は争う。第三、三ないし五の事実は否認する。
第五証拠≪省略≫
理由
一 被告は、遺言執行者は、本件建物明渡のような相続により分割移転登記完了後の所有権行使の権限を有しないから、原告が遺言執行者としてなした本件訴は不適法である旨主張する。
しかしながら遺言執行者は、特定の物又は権利が遺贈の目的とされた場合には、受贈者にその物又は権利の移転を受けさせるために必要な一切の行為をなすべき任務を負い、受贈者以外の第三者がこれを妨げる場合には、自己の名をもって右第三者に対し、その物についての妨害を排除すべく、不動産については所有権移転登記は勿論、その引渡を求める訴を提起することもその権限の範囲に属するものというべきであるから、被告の右主張は理由がない。
二 請求原因第二、三の事実は当事者間に争いなく、≪証拠省略≫によれば、請求原因第二、一、二、四、五の事実が認められ、右認定を左右しうべき証拠はない。
三 被告は、虎之助の昭和三八年二月一一日の遺言書により、本件建物の遺贈を受けた旨主張するが、仮に右事実が存したとしても、前記二のとおり、虎之助は、その後昭和四九年九月六日、被告主張の右遺言とは牴触する本件建物を市川まき、市川信子に持分二分の一づつ遺贈する旨の本件遺言をしたのであるから、被告主張の遺言は撤回されたものというべきである。
四 被告主張の第三、四、五の事実を認めるに足りる証拠はない。
五 よって原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言およびその免脱宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 山本矩夫)
<以下省略>